QHODO検波を実用に

レシオ検波の改良という持ちネタがあるのですが、図々しくQhodoDetectorと名付けてみます。今回これをある研究に使うFM検波装置として製作しました。

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先に全体の回路図を公開しておきます。

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Ratio検波とQhodo検波
レシオ検波というのは真空管時代から1980年頃まで使われたFM検波回路です。特徴は共振回路とダイオードなどのパッシブ素子だけで作られるので電源が不要です。また振幅変動に強いといううたい文句があります。元ネタはたしかRCAの特許らしいです。

ただ、なかなか回路が理解しにくいのと、特殊なトランスが必要なことから、正しく理解していた技術者はあまり多くなかっただろうと思います。というのは、鳩歩堂に言わせるとこのAM抑圧性能はほとんど期待できないのですが、教科書にも実際のラジオのレシオ検波回路にもAM抑圧用のコンデンサが付いてる、ということは、よくわからないままなぞっていた技術者が多かったのだと思います。

しかも元ネタからして若干の間違いが含まれているような気がします(平滑コンデンサの中点ではなく分圧抵抗の中点が接地されているなど)。逆に言うと、元ネタがちょっと正解からズレているために理解しにくいのです。

それは特許に特有の事情なのかも知れないと思います。思いますというのは特許公報まで調べたわけではないからですが、次のような憶測も可能。特許というのは出願時の請求項1にはAM抑圧性能というようなオマケの機能を付けた特殊形ではなく、もっと発明の本質だけを含む抽象度が高い記述をしておくものです。もしかすると出願時の請求項1が拒絶され、AM抑圧機能のある形態を請求項1に格上げする形に補正し、範囲を狭めて権利化された、なんてこともあるかも? 調べた訳じゃありませんが。

さて、Qhodo検波回路を復習しますと、↓こんな回路です。詳しくは過去の記事を参照してください。

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L1とC1はFM信号の中心周波数に同調されていますが、FM信号はL1のセンタータップから供給されるので、それだけならL1の両端の電圧は同じ方向へ振れるだけで、L1とC1の共振回路は励振されません。ところが、L2とC2がセンターから1タップめに付いているため、FM信号電圧に対してL2には位相が90°遅れた電流が、C2には位相が90°進んだ電流がそれぞれ流れます。その結果L1にはセンタータップに供給されているFM信号と位相が90°ずれた励振電圧が与えられます。

この励振電圧をどうやってL1に与えるかがレシオ検波との最大の違いです。レシオ検波回路を次に示します。

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RF INPUTというところからFM信号が入ります。RFと書いてしまいましたが、スーパーへテロダインではIFになりますね。レシオ検波ではFM信号の供給と90°位相がずれた励振電圧の供給を、いずれも相互誘導で共振コイルに結合するため、複雑なトランスが必要になります。

レシオ検波でもQhodo検波でも入力FM信号に対して位相が(正確に言うとFM信号の中心周波数において)90°ずれた電流がL1とC1(すみません、レシオ検波の回路図は使いまわしなのでL2とC1)の共振回路を励振します。その結果、L1とC1による並列共振回路の両端にはそれぞれコイルのセンターから供給されたFM信号そのものと(正確に言うとFM信号の中心周波数において)位相が90°ずれた共振電圧をベクトル的に足した電圧と引いた電圧が現れます。

共振回路の右側はL1の両端の電圧振幅をぞれぞれAM検波して差電圧をとる回路です。FM信号の周波数が中心からずれると、L1とC1の共振電圧の位相が変化し、その結果上記のベクトル和とベクトル差の振幅に差が生じます。両端の電圧のAM検波した値の差を取り出すというのがレシオ検波およびQhodo検波のミソです。

ところで、L2またはC2だけでもQhodo検波は動作します。片方だけでも、そのインピーダンスをL1の両端で見たときにL1(またはC1)の共振周波数でのインピーダンスに比べて十分大きければ、位相を90°ずらせる作用が期待できるので。FM信号の信号源から見たQhodo検波のインピーダンスを抵抗性に近づけるにはL2とC2の両方つけておくほうが良いだろうというわけで、L2とC2も中心周波数に同調(中心周波数のときに同じインピーダンスになるような素子値に)してありますが、こちらは共振器として見た場合Q値が低いため(というのは電圧源に近いところに接続されている並列共振器と見なせるので)、L1とC1の共振器ほど敏感に位相は回りません。

レシオ検波と従来のQhodo検波のもうひとつの違いは、AM検波部分のコンデンサの中点を接地するか負荷抵抗の中点を接地するかの違いです。Qhodo方式だとFM信号の中心周波数が同調周波数からずれっぱなしの場合、つまりFMのDC成分がある場合、それも検出できますが、レシオ検波方式だと音声信号しか得られません。

L1とかL2の値をどう選ぶか
L1とC1の共振の鋭さ(Q値)がQhodo検波回路の感度と帯域を決めます。ここにはQの高いコイルを使用し、帯域を拡げるためにQ値を下げたいときはL1とC1に並列に抵抗(この場合より正しくはコンダクタンス)を接続すると良いと思いますが、今回はなるべく感度を上げたいのでQは下げません。

具体的には、L1はアミドンのT-37-6コアに全部で14ターン巻いたものを使いました。まず、これを基準にして巻き数を減らしたり増やしたりするとどうなるのか、定性的に考えてみます。

L2とC2を付ける位置はセンターから1ターン目と決まっています。言い換えると、0.7ターン目というような芸当はできないと考えた方がいいです。そうするとL2とC2のインピーダンスはL1の両端では等価的にトータルの巻き数の自乗倍に見えることになります。

仮にトータルの巻き数が減るとL2とC2のインピーダンスがL1に対して相対的に小さくなります。これはメリットとしてL1とC1の並列共振回路の励振勢力が強くなることを意味しますが、デメリットも考えられます。すなわち、L1とC1の共振回路のQ値が下がります。つまり励振は強まるがQが下がるので一概にどっちがいいとは言えません。また、FM信号源から見たときに負荷が重くなりますので、そういう意味でもL1とC1の共振回路の共振振幅が増加するかどうかは一概に言えません。

これと同じことが、L2を小さくしたりC2を大きくしたりすることについて、つまりL2とC2のインピーダンスを下げることについても言えます。すなわち、L1とC1の共振回路の励振が強まる半面、Qが下がるのと信号源から見て負荷が重くなる効果があり、一概にどのあたりがいいとは言えません。

一概にいえないとばかり言うのは無責任のようですが、式を作って最適な値を推定するほどのことでもありません。実験してみるとわかります。今回はFM信号源(Qhodo検波の駆動源)として74HC04を2個使いましたが、その場合L1の巻き数を上記の14ターンから4ターン増やしてもほとんど検波出力の振幅が変わりません。逆に2ターン減らしてもほとんど変わりません。ということで、まずまず14ターンでいいだろいうという判断になりました。

L2とC2の値はL1とC1の並列共振のQ値に与える影響が大きいようです。L2とC2は最初は0.6uHと360pFにしていましたが、2uHと100pFにしたほうが検波出力振幅が大きくなりました。それと引き替えに少し応答が遅くなりましたので、これはQ値が上がったためだと思います。更にL2にはFT-23-61コアを使っていますが、更に巻き数を2巻きくらい増やしてもあまり検波出力が大きくなりませんでした。L2は損失が大きくも(Q値が低くても)かまいませんから、比較的に高い透磁率のコアを使用することができます。

従来のAM検波部分は最適か
実際のラジオなどでD1とD2に直列に数百Ω程度の抵抗が入っている例があります。これを入れる方が共振回路のQが上がって結果として出力振幅が大きくなる場合があります。Qhodo検波でも以前は入れたこともあります。

そもそもダイオードと平滑コンデンサによるAM検波というものをよく考えてみると、信号源にとって非常に非線形な負荷です。信号源の振幅が時間と共に増加している局面を考えますと、直前の振幅を超えるまではダイオードが導通しませんから負荷は軽いですが、導通した後は容量負荷になります。すなわち負荷が重いのです。ところが振幅が時間と共に減少していく局面では負荷はダイオードで切り離されてしまいますから負荷が軽くなります。

そのため、レシオ検波や従来のQhodo検波でD1とD2の左側に抵抗を入れると、振幅増加局面でも負荷が少し軽くなって共振回路のQが上がるということだと思います。場当たり的な対策だと思います。

AM検波部分の改良
そこで今回は次のような回路にしました。

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負荷抵抗をダイオードの左側に移してしまいました。そして、ダイオードは上向きのペアと下向きのペアを両方付けました。A点とB点の瞬時電圧の大小によって(ここでは簡易的にA, Bなどの瞬時電圧をそれぞれA, Bと書くことにすれば)ABのときはD3とD4のペアに電流が流れます。いずれの場合もダイオードの中点に現れるのはR1とR2によってAとBの電圧の中点を取った値になります。次の図のように。

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ダイオードのスレッショルド電圧を無視すれば、共振回路から見た負荷抵抗は常に一定です。もっともR1とR2はかなり大きい値にしましたので、ダイオードが導通しているかどうかに関わらず、L1とC1の共振回路本来のQをあまり低下させないようになっています。具体的な数字を挙げると、L1とC1のインピーダンスは共振点(今回は10.7MHz)で40Ω程度であるのに対し、R1とR2は10kΩとしました。

そして今回の方式ではダイオードの中点に付いているコンデンサC3とC4はAM検波の平滑コンデンサというよりも、R1とR2とこれらのコンデンサを組み合わせて1次のローパスフィルタを形成していると考える方がいいです。つまりこれらのコンデンサは無くても動作します。しかしあとで振動成分をフィルタする必要はあります。

この改良によって互いに逆極性のFM検波電圧が得られ、これらを引き算すると検波出力振幅が従来の2倍になりますが、別のもっとオイシイ効果があります。同相で乗ってくるノイズを強力に抑圧できるということです。下の写真は引き算する前のそれぞれのFM検波出力です。

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鳩歩堂が回路を作っている部屋では電源配線にかなり正確な10kHzの整数倍のノイズがときどき乗ってきます。しかも振幅が変わったり、完全に消えたりします。たぶんエレベータのインバータから来るのではないかと思いますが、電力が大きくしつこいノイズです。上の写真はとくにひどいノイズが入った時に撮影しました。これを引き算(オシロスコープで反転加算)するとこんなにきれいになります。

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ダイオードの種類は?
今回の中心周波数10.7MHzの場合、スイッチング用のシリコンダイオードで十分です。もちろんショットキーバリアダイオードでもOKです。しかし、普通のAM検波と違って常に振幅の大きい信号の振幅差を検出するためのダイオードなので、スレッショルド電圧が低いほど良いということはとくになく、pn接合ダイオードでも結果はほとんど変わりません。またペア性が悪くてもあまり影響が出ませんから、2素子または4素子入りのチップ部品でなくても全く問題ありません。

後段の回路の設計
ところでR1とR2が大きいため、検波出力は信号源インピーダンスが高く、オペアンプの非反転アンプでバッファしてから引き算しなければなりません。こういう場合、2個の非反転を独立にしないで、R5を共通にしてやると、同相除去性能が向上します。インスツルメンテーションアンプとして知られる回路ですね。同相信号に対しては非反転アンプがゲイン1になり、差動信号に対してはそれより大きい値になるためです。
(※上記のオペアンプの非反転アンプでバッファしてからというところについて補足します。いきなり引き算回路に入れることもできなくはありませんが、C点とD点の負荷インピーダンスが等しくなるように配慮する必要があります。また反転増幅でバッファしてもいいです。ただインスツルメンテーションアンプの非反転バッファによる同相除去の改善が期待できません)

ここで、上の上の上の図を見るとわかりますが、ふたつのFM検波信号にはもとのFM信号の周波数が同相で含まれています。この成分はインスツルメンテーションアンプで除去できます。ところが、IFの2次高調波成分は逆相で含まれているので、引き算しても消えません。つまりインスツルメンテーションアンプの非反転増幅段のゲインを無暗に上げても2次高調波は減りませんから、そこそこのゲインにとどめておいて、高調波はローパスフィルタで除去しようと思います。

今回は検波出力は数十kHz程度の帯域を確保すればいいのに対し、除去したい周波数は10.7MHz以上で、比が大きいため、ローパスフィルタの肩特性はあまり問題にする必要がありません。それよりも、10kHzあたりでなるべく位相が回らないようにしたいと思います。こういう場合、バターワースやチェビシェフ特性を使よりも、単純にRCの1次フィルタを何回も掛けるほうがいいようです。

下の図はカットオフ1.59MHzの1次フィルタを3回かけた場合の振幅特性です。

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10kHzでの位相遅れは2段目で0.78°、3段目で1.1°です。

ちなみにフィルタ間にバッファがないとこうなります。

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肩特性が悪化し、10kHzでの位相遅れは2段目で1.8°、3段目で2.2°に増えました。

さらについでながら、後の方のRCのインピーダンスを10倍ずつ上げていくと、バッファを使った場合とほぼ遜色ない特性になり、位相の遅れもほぼ同じになります。

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全体の回路図で、Qhodo検波のダイオードの間(4番目の回路図のD1とD2およびD3とD4の間)に付いている13pFは1次ローパスフィルタのコンデンサです。R1とR2とこれらのコンデンサで1MHzのカットオフ周波数になるように設計しました。R1とR2はいずれも10kΩで、両方電圧源に接続されていると考えると、信号源インピーダンスは半分の5kΩです。しかし半分の時間だけ導通し、残りの半分の時間は信号源が切り離されているので、時間平均するとその倍の10kΩと考えられます。そうするとカットオフ1MHzにするにはコンデンサは15.9pFになりますが、インスツルメンテーションアンプの非反転バッファに使っているオペアンプAD822の入力容量が約3pFあるので、その分を引いて13pFにしました。同じカットオフ周波数の1次フィルタがインスツルメンテーションアンプの引き算回路にも施してありますが、その非反転入力についても入力容量だけ差し引いて13pFにしてあります。

オートチューニング
Qhodo検波では入力信号が検波器の中心周波数からずれていると検波出力にDC成分が出ます。つまりゼロヘルツまで検波できます。逆にL1とC1の並列共振の中心周波数が熱ドリフトしやすかったり、Q値が高すぎてFM信号の中心周波数がずれるとすぐ帯域外になったりする場合、C1の一部をバリキャップで変化できるようにしておくと、検波出力にDCオフセットが出ないように自動チューニングすることができます。つまり中心周波数を自動的にトラックしてくれます。

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上の回路図中、10kΩの抵抗値はどうして決めるかというと、同調回路のインピーダンスより十分高くすべしという条件があります。逆にあまり抵抗値が高すぎるのも考え物です。バリキャップの逆電流による抵抗での電圧降下が無視できなくなったら抵抗が高すぎます。またインピーダンスが高すぎると誘電的に基板上とか装置内の他の電圧信号などの影響を受けます。

ところで、偶数次の歪みを出さないようにバリキャップはback-to-backにして使います。2素子のバリキャップが1パッケージに入っているチップ部品が便利です。今回使用したのはHVR17という日立のバリキャップで、残念ながら1素子入りです。鈴商で5個210円也。鈴商のホームページにはHMR17ではなくHVM17のデータシートが載っていました。HMV17は2素子入りなので喜んで買ってきたら1素子入りでした。

HMR17はすでにルネサスでは廃止品種らしいです。鈴商さんに電話で問い合わせたところ、HMV17の1素子分とほとんど同じ特性のようです。ちなみにHMU17という1素子入りでさらに小さいパッケージのが現行品らしいですが、それも同じ特性です。HM*17は同じ特性ということなのでしょう。

完成した検波器のオートチューニング機能は10.7MHzを中心に約±100kHzの範囲に自動的に同調してくれます。これだけ中心周波数がずれてもFM信号の中心周波数(キャリア周波数)からのデビエーションと検波出力の振幅の関係(スケールファクタ)はほとんど変わりません。ということから、逆にL2とC2の形成する並列共振(間にL1の2ターンが挟まっているが)のQ値が低いことがわかります。

駆動回路はどうするか
レシオ検波にはAM抑圧機能があるというのは、短時間の変動をいくらか抑圧できるというだけで、基本的に検波出力は入力されるFM信号の振幅に比例します。Qhodo検波でもまったく同じです。つまり振幅を完全に一定にしてからQhodo検波を駆動しないと、入力振幅の影響が出ます。

振幅が一定になるように飽和させて使う、しかも電流がけっこう取れる、といことになればCMOSロジックのインバータが最適です。複数のインバータをパラにして使います。74HC04、74HCU04、74AC04の3種類を使ってみましたが、検波出力のスケールファクタやノイズなどには差がありませんでした。74AC04は動作が速いのでステップエッジが鋭いですが、必要なのは基本周波数(10.7MHz)成分だけなので、エッジには必要な成分は含まれていません。必要以上にエッジが鋭いと無駄に電源やグランドの電位を動揺させるので、ACタイプは除外しました。ゲインが大きい方が波形を飽和させる能力には優れているわけですから、HCUタイプも除外され、残った74HC04を使うことにしました。

検波出力振幅を大きくとるにはQhodo検波の駆動電圧の振幅を大きくする必要があります。標準CMOSを使うと電源電圧が5Vと決まるので、インバータ出力をトランス(またはバラン)で昇圧してQhodo検波を駆動することにします。バランで1:2または1:3以上に昇圧することができますが、Qhodo検波の駆動信号はいちおう電圧源を仮定しているため、あまり無理しない範囲で1:2の昇圧(インピーダンス的には1:4に変換)を使って10Vppの信号で駆動することにしました。やってみると、インバータの消費電流は50mA内外でした。

ところがHCタイプはVCCやGND端子に流せる電流が50mA以内という絶対最大定格がありますので、インバータIC1個では危険です。単純に2個のインバータICをパラにするか、逆相で駆動してブリッジ出力でトランスの1次側を駆動し2次側で同相電圧に変換します。ちなみにACタイプはゲートあたりの出力電流は大きいですが、VccやGNDも含めてピン1本あたり±50mAという絶対最大定格は変わりません。

ここはパラレルよりもプッシュプルのほうが有利と判断しました。というのは、電源から見るとパラレルの場合は10.7MHzの大電流が流れるのに対し、プッシュプルの場合は相殺して21.4MHzの小さい電流が流れるだけなので、電源電圧の動揺が小さくなります。

入力部AGCとCMOSインバータへの接続
装置への入力信号の振幅は概ね0dBm程度で、矩形波とは限りません。この信号をCMOSインバータに入力するもっとも簡易的な方法は、アンバッファのインバータ74HCU04か1素子入りのTC74SU04Fなどに抵抗でネガティブフィードバックをかけ、容量結合で入力する方法でしょう。

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ちなみにアンバッファでないとどうなるかというと、普通のインバータは内部で3つのインバータのカスケードになっているので、3段目の出力から1段目にフィードバックを掛けても内部のインバータが飽和している可能性がありますから、理屈の上ではうまくいなかいことがあると考えるべきです。でもアンバッファでなくてもけっこ使えたりします。つまり、インバータのスレッショルド電圧というのはかなり正確にVccとGNDの中心になるように調節されているようです。

ところで、ネガティブフィードバックがかかっているインバータに信号が入力されていないときは、P-MOSとN-MOSが両方中途半端にONになっているため、けっこう消費電流が流れます。上で述べたように、CMOSのスレッショルド電圧はかなり正確に電源電圧の1/2になっているため、この消費電流の増加はネガティブフィードバックがかかっているインバータだけでなく、その後に接続されたCMOS回路にも発生します。

ということで、ネガティブフィードバックをかけた最初の段の電流増加はしょうがないとして、次の段まで増えるのは防止したいと思います。そうすると、軽くシュミットトリガ特性を持たせたくなります。次のようにポジティブフィードバックを軽くかけると可能です。

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ところがこれをやると入力の感度が悪くなります。シュミットトリガ特性はノイズに強いというのは、ゆっくり変化する入力信号に対して立ち上がりや立下りでチャタリングを起こさないということです。

というわけで、0dBmよりもう少し小さい振幅でもちゃんと入力できるようにするにはアナログのアンプを使うほうがいいでしょう。今回は入力信号が10.7MHz付近と決まっているので、同調回路も使用することができます。現在鈴商さんで3SK241というGaAsのデュアルゲートMOSを安く入手できるので、今回はそれを使い、装置の目的から考えたら少々贅沢ですがAGCをかけてみました。全体の回路図をご覧ください。ショットキーダイオードで倍電圧整流した結果が1Vになるように動作します。これによって-15dBm程度の信号まで使えるようになりました。第1ゲートに逆並列にダイオードが2個入っていますが、これ入力振幅が大きすぎる場合に対応するためです。

3SK241と74HC04の接続はフェライトビードを使ったトランスで行っています。このトランスは2次側にセンタータップが付いていて(2次側はツイストペアで巻いてあります)、2個のCMOSインバータを逆相で駆動します。

ちなみにバランはここには適しません。バランは2次側に適度に小さい負荷抵抗がないと同相インピーダンスの相対的な大きさが発揮できないのでうまく動作しません。CMOSインバータの入力インピーダンスは高いのでまさに適さないのですが、別の観点からも適しません。バランは普通2本か3本の線を撚って作りますから、1次側と2次側の巻線間の静電容量が大きくなります。そのため、1次側と2次側は磁束で結合する以前に容量結合しています。2次側の負荷インピーダンスがその容量結合に較べて十分小さければ問題とならないのですが、負荷インピーダンスが大きい場合は容量結合が優勢になり、しかも1次巻線にかかる電圧振幅は電源側の方がGND側より大きいですから、2次巻線の両端に現れる容量結合の影響はアンバランスになってしまいます。

さて、今回の回路ではあまり見慣れないタスキ掛けのような抵抗がCMOSインバータの入力についています。


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これは上で述べたのと同じように、入力信号がないときにCMOSインバータにシュミットトリガをかけようという意図です。2個のインバータは逆相で駆動されますので、それぞれにポジティブフィードバックをかけてシュミットトリガ対称性にするより、これのほうが対称性が良いだろうと思うのです。もし100kΩがなければポジティブフィードバックしかないので単安定マルチバイブレータのようなものですが、それぞれのインバータは100kΩを通して自分自身にネガティブフィードバックがかかるようになっています。

AUX IF OUTというのは別の検波回路などを外部に接続したい場合に使います。ここには0.4Vpp程度の矩形波が出力されます。

電源回路への配慮
電源安定化回路は3端子電源ICですが、まず8Vに安定化した上でもう一度5Vに安定化しています。これは1段だけだと電源リプルが十分に除去できなかったためです。

とくに心配なのは検波回路のオートチューニング用のバリキャップです。カソード側はオペアンプの電源除去比が期待できますがアノード側は-Vccに接続されていますから、電源リプルがあったら検波回路の中心周波数が動揺し、間違いなく検波出力にその動揺が現れます。アノード側をGNDに接続するとこの心配がありませんが、電源電圧が±5Vであまり高くないため、チューニング電圧が0~5Vの範囲しか使えなくなるのは惜しいというわけです。

それから、今回使った電源トランスはRSコンポーネンツで買ったトロイダルトランスです。

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最初はヨトデンの電源トランスを使った基板を作りましたが、ケースが小さいためにトランスと検波回路の距離近く、トランスの漏れ磁束が検波回路に鎖交して50Hzのノイズが出てしまいました。この問題についてはこちらをご覧ください。

検波器の性能とシグナルジェネレータV.S.ファンジェネ
では完成した検波器でファンクションジェネレータAFG320とシグナルジェネレータ8643Aの信号純度を比較しましょう。いずれもキャリア周波数10.7MHz、変調周信号は10kHzの矩形波、デビエーションは100Hzです(AFG320は±100Hz、8643Aは100Hzppという意味らしいです)。

AFG320の写真と検波波形。
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次に8643Aの写真と検波波形。
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8643Aの方が断然綺麗です。8644Bならもっと綺麗かもしれません。こうしてみるとDDSの信号純度はあんまりよくないですね。ファンジェネは純度の点でSGの足元にも及びません。なお、上にも書きましたが、デビエーションの設定値はどちらの信号源も100Hzですが、片方はプラマイ他方はピーピーなので、検波出力の振幅も2:1になっています。

検波器の-3dB帯域は約70kHzでした。信号源に8643Aを使った場合、オシロスコープで見る範囲では検波出力に数Hz相当のノイズが見えます。これが検波器由来なのか信号源由来なのかは判断しにくいところです。

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  • 電源の接地パターンのミス

    Excerpt: 計測用Qhodo検波器の電源の接地パターンに一部ミスがあり、そのせいで電源電圧に100Hzの変動が乗っていました。。 Weblog: 鳩歩堂の電子工作館 racked: 2012-01-23 23:20