パルストランス考

画像

コモンモードチョークは入手しやすいので、パルストランスのかわりに使えないかという考察をしようと思います。ここではパルストランスといってもいちおうパワーMOSのゲートを駆動する用途に限定します。

パルストランスを選ぶには「ET積」というパラメータが重要です。これは鉄心を飽和させないで使うための条件です。

画像


上の図はパルストランスの1次側にかかる電圧と電流です。ピンクで塗りつぶした部分が伝達したいパルスとします。これが2次側に伝達されます。ピンク部分の電圧がコイルに掛かっているうちに、電流は直線的に増加します。相互インダクタンスを考えると面倒だし、2次側から大きな電力を取る必要は普通ないので、自己インダクタンスLだけ考えると、電圧Eと電流Iの関係はE=LdI/dtです。これを積分するとIが求まり、ここではEが一定のパルスなのでI=Et/Lとなります。パルス幅をTとすると、電流はET/Lまで増加しますが、この値で鉄心が飽和しない範囲でないと使えません。鉄心が飽和する電流値をIsとすると、ET < LIsを守らないと鉄心が飽和します。このLIsの値をET積と呼びます。

さて、パルストランスはパルスを伝達したらリセットという動作が必要です。これは電流をゼロに戻す動作です。電流はすぐには止まりません。コイルに逆電圧をかけると徐々に減って行きます。図の薄青い部分がリセット動作です。ピンクの部分と薄青の部分は同じ面積になります。したがって逆電圧が大いほうが早くリセットが完了します。リセットが完了しないうちに次のパルスが来ると、電流はだんだん増加して、ついには飽和してしまいます。下の図のように。

画像


リセットのために逆電圧をかける回路は簡単です。下の図は「ピエゾウォーカーと駆動回路の工夫」で紹介したアンプの回路図です。

画像


パルストランスの1次側に普通のダイオードと逆直列のツェナダイオードが入っているのがリセット回路です。パルスが終了(LM311の出力トランジスタがOFF)した後、1次側のコイルには電流を流し続けようとするので、ダイオード及びツェナを導通させる方向の電圧(パルスとは逆の電圧)が自然と発生します。その電圧の最大値は(24+0.6)V程度に及ぶことになります。2次側でリセットすることも可能です。

ちなみに、この回路図に使われているEP-101-103というパルストランスは、巻数比1:1で自己インダクタンスが10mHです。型番の103の部分がuH単位の自己インダクタンスを表しています。ET積は260V-usです。鉄心が飽和する電流は26mAということになります。

ノブコンのノコギリ波の立下りはけっこう長くて20usくらいあります。従ってパルス幅は20us、パルスの高さはだいたい電源電圧の10Vなので、その積は200V-usとなり、EP-101-103のET積以下に収まります。パルスの立ち下がりまでに電流は200V-us / 10mH = 20mAまで増加します。

では、冒頭の写真のコモンモードチョークをパルストランスに使ってみましょう。まず、2次側がオープンの場合です。

画像


部品箱にあった適当なパワーMOSを使用してコモンモードチョークをパルス状にスイッチします。電圧は2次側で測定しました。

画像


上が2次側の電圧波形。下側の波形はファンクションジェネレータの波形です。パルス幅は10us程度です。これより長いと飽和し始めました。このコイルのインダクタンスはLCR計で1kHzで計測したところ3.3mHでした。飽和電流は30mAと計算されます。さすがコモンモードチョークの性質が現れています。ジャンク店で買ってきたのでこのコモンモードチョークがどの程度のノーマルモード電流を流せるか知りませんが、は1Aとか2Aは流せるでしょう。それに対してコモンモードは30mAというのはかなり小さい値です。

リセット電圧はマイナス26Vくらいまで下がっていますが、だいたいツェナ電圧で止まったことがわかります。2次側でパワーMOSのゲートを駆動する場合、OFFにするにはゲートから電荷を引き抜かなければ鳴らないので、ゼロボルトに戻すよりも負の電圧をかけるほうが速く引き抜けるはずです。また、パワーMOSのゲートは-30Vくらいまで掛けても壊れません。もう少しツェナ電圧が低いほうが安心ではあります。

つぎに2次側に1kオームをパラに入れました。

画像


画像


リセット時、2次側に追加した抵抗はリセット回路にパラに入ったのと等価なので、リセット電圧は小さめで長く尾を引くようになりました。

つぎに再び抵抗を外して24Vのツェナも外してダイオードだけ残してみます。

画像


画像


リセット電圧は-0.6V程度と小さい値です。さっきまでの写真では右端に見えていた次のパルスが見えません。というのは、次のパルスを200usくらい離さないと飽和してしまいました。つまり、リセットに時間がかかります。パルスのET積が100V-usなので、もしリセット電圧が-0.6Vだとすると166usくらいリセットに時間がかかることになります。これは200us離さないと飽和するという実験結果と、まあまあの一致といえましょう。

ちなみに飽和するとどんな波形になるか見てみましょう。

画像


パルスが1/4くらいで切れています。その後はどうなるかというと、鉄心が飽和したのでインダクタンスがほとんど無くなり、電流が急に増大し、電源の保護回路のおかげで壊れはしませんでしたが、駆動しているMOSにも無理を掛けています。

ということで結論。コモンモードチョークをパルストランスの代用として使うことは、特性を自分で把握できるなら、可能です。コモンモードチョークはもともとがノイズフィルタなので、比透磁率が高くヒステリシス損が大きいコアを使っているとかも知れません。ET積ぎりぎりのパルスを高頻度で伝送していると熱くなるかも知れません。またサイズの割りにET積が小さいのですが、これは大きいノーマルモード電流を流せるように太い線を巻かなければならないので、穴が大きくて断面積が小さいコアになっているためだろうと思います。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 大同新娘跟?

    Excerpt: http://hi.baidu.com/dtdear3 大同 Weblog: 大同新娘跟? racked: 2013-05-20 01:59