ピエゾウォーカーと駆動回路の工夫

鳩歩堂はAFM(原子間力顕微鏡)などの研究に従事しています。この仕事ではナノメートルとかオングストローム以下の変位を制御する必要がたびたび生じます。圧電素子(ピエゾ素子)を使うとそれは出来るのですが、圧電素子のストロークはミクロン程度しかありません。

たとえばAFMのカンチレバーを試料に接近させて、最終的にはナノメートル程度の距離に接近させる、という作業では試料やカンチレバーを取り付けるのは手作業で行うので、最初はどうがんばってもカンチレバーと試料の間は100ミクロンオーダーの距離があります。最終的にカンチレバーを動かす圧電素子とは別に何らかの粗動アクチュエータと組み合わせて使わなければなりません。

そういうときに業界でよく使われているのがピエゾウォーカーです。

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剪断変形する圧電素子が動かしたい物体の下に貼り付けてあります。これををゆっくり変形させると物体は平行移動します。その後圧電素子の変形を急速に元に戻すと、物体の慣性力が圧電素子と床面の間の静止摩擦力を超え、物体の位置は元に戻らず圧電素子の下面が滑って元の形に戻ります。これを繰り返すといくらでも移動して行かれます。一回の移動距離は数ナノメートルから100ナノメートル程度です。圧電素子は富士セラミックスという会社で特注で作ってもらっています。ひとつ1万円くらい。

さて、今日のお題はその駆動回路です。

駆動波形はノコギリ波で、動きを確実にするには電圧がゼロに戻る時の傾きをできるだけ急にしてやらなければなりません。圧電素子は容量性なので、急激な電圧変化をさせるには大電流を流さなければなりません。また圧電素子にかける電圧は一般に高く(鳩歩堂製では最大250V程度)、最大電圧と最大電流を同時に満足しようとすると非常に高価ででかいアンプが必要になります。ところが、圧電素子の充電時(ゆっくり変形時)に必要な電流は10mAにも満たず、放電時(急激変形時)に戻る電圧はいつもゼロボルトということなので、戻りはスイッチ素子でショートしてやれば、非常に小さい回路で十分に間に合います。

ゆっくり変形時のランプ波形は電流源と圧電素子自体の容量で決まるスロープを使っても良いのです。以前そういうタイプも作りましたが、圧電素子が変わると傾きが変わるので、なんとなく高級感が足りない感じがします。現在は電流駆動能力は小さいが電圧は250Vまで出せる電圧アンプにパワーMOSのスイッチを組み合わせています。

鳩歩堂謹製の装置ではノコギリ波の発生方法はいくつかあって、学生実験に使っているのはPICとNE555を使ったものです。ロータリーエンコーダのノブでコントロールするから通称ノブコン。

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定電流はベース接地のPNPトランジスタ1石の簡素なものです。NE555に定電流源を組み合わせてノコギリ波を作るというのはアナログシンセサイザの回路でも見たことがあり、ここまでは定番といえます。30年前の定番かもしれません。

ベース接地のベースが接続してあるのはNE555のコントロール電圧という端子です。本来この端子は電圧を外部から変化させると、NE555内部の閾値電圧が変化し、無安定マルチバイブレータとして使ったときには周波数が変わるという端子ですが、この端子によるFMなど使っている例はほとんどなく、普通はノイズ対策に0.01uFを接続しておくことになっている、ほぼ無用の端子です。今回これに活躍の場を与えました、というほどの話じゃありませんが、低電流用のトランジスタのベース電位としてちょうど良いので使いました。

電流値はPICとエミッタによる簡易的4ビットDAコンバータで変化させます。

ノコギリ波の極性を反転させたりさせなかったりするのはNE5532とPICのRA4のコラボレーションです。PICのRA4はオープンコレクタ出力なので(これも使いにくい端子なのですが)、これがOFFのときは等倍反転増幅と2倍非反転増幅の組み合わせで等倍非反転、ONのときは等倍反転になるという回路です。

圧電サウンダーは動作しているのがミミでわかるという程度のおまけです。ウォーカーの圧電素子自体の音を聞いている方がウォーカーの調子がわかっていいのですが、もし真空中で使うような場合は音が聞こえないので止め忘れたりしないように、ノブコンからも音が出せるようにしたのでした。

次の回路がノブコン用アンプです。

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上半分はオペアンプに電圧ブースターを付けた高電圧アンプです。電圧電流変換部にバイアス回路がありません。ゼロボルト付近では大きなクロスオーバー歪みが発生しますが、ノコギリ波専用なのでこれでいいのです。また、電圧増幅段が無いので、出力がグランドに短絡しても壊れません。つまり、出力をMOSトランジスタで無理矢理グランドすることが可能です。

下半分の微分回路とコンパレータによってノコギリ波の傾きがある閾値より大きいときだけMOSトランジスタをONにします。負の電圧をショートするにはPチャンネルMOSがあればいいのですが、Pチャンネルで高耐圧のものがあまりないので、Nチャンネルのを逆直列にして使います。そのかわり、ホット側のゲートはパルストランスを介して駆動しています。

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パルストランスは秋葉原でちょっと買って来ようと思ってもどこで売っているかわかりません。高槻無線に発注しておいたら届けてくれました。それも面倒だという方、電源用のコモンモードチョークが流用できるかも知れません。そのへんの遊びはいずれアップしようと思います。

右に見えているトランスはノグチトランスのPM-3Wです。100Vの一次巻き線が2組と同じく100Vの二次巻き線がや2組入っていて、それぞれ直列か並列に接続して使えば昇圧も降圧もできるという便利なものなんですが、在庫限りで販売終了ということで、それが無くなるともっとVAが大きいトランスしか無いようなので、このサイズに収まらなくなるかも知れません。残念なことです。

MOSによるショートが働かないと、こんな波形。

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MOSによるショートが働くとこんな波形になります。

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ちなみにこのオシロ、F研究室で捨てるというから貰ってきたものです。BATT.DOWNしてるのは鳩歩堂の管理が悪いわけじゃないと言い訳してますが。



普段使いにはアナログオシロスコープのほうが使い心地が良いんですがね、今のお子さん達は知らないんだろうな。

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