お酒が美味しくなるはなし(超音波編)

数年前のこと、朝倉俊博さんという方が書かれた本を紹介されました。
 うまい酒は、なぜうまい―「さらば悪酔い・二日酔い」の科学 (カッパ・サイエンス) (新書)
この本(絶版だが古本は出回ってる)には、微弱な超音波を照射するとお酒がまろやかになる、ということが書かれているのです。まろやかになるだけでなく、二日酔いもしにくくなるそうで、動物実験の結果も紹介されており、たいへん興味を持ちました。

超音波洗浄機のような強い超音波でもお酒の味は変化するのですが、微弱超音波で十分な効果があり、エネルギーを投入しすぎれば温度上昇による劣化も起こるでしょうから微弱超音波で数日間処理するのが良いとのこと。朝倉さんは微弱超音波の発生器を取り付けたデキャンタの特許も取得され、その実物は東急ハンズで販売されていたそうです。ちなみに特許はもう切れているだろうと思います。

半信半疑の鳩歩堂は試してみることにしました。超音波用の圧電素子はそこらで売ってません(実は今年の秋から鈴商で売り始めましたが、この話は数年前のこと)。しかし微弱な超音波で良いのですから、可聴周波数用の圧電サウンダーで代用になりそうです。圧電サウンダーの中身だけのを鈴商で買い、100円均一のステンレス容器の底に接着してみました。抵抗を介してファンクションジェネレータを接続し、インピーダンスの変化を観察すると数十kHzに共振が見られましたが、不明瞭な共振特性です。あの膜のように薄い圧電体ですから、機械的な負荷が大きすぎて共振らしい共振をしないのでしょう。

ともかくも容器に水を入れ、その中に酒瓶を浸け、圧電素子にファンクションジェネレータをつないでみました。数時間後、
 美味い!かどうかはともかく全然辛くない。
いやどうも驚きました。

さっそく作った実用機がこれ
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いちばん右のはワインクーラーを改造したものです。底から見ると
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真ん中に圧電サウンダーが貼ってあります。回路は
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共振周波数が不明瞭とはいえ、お酒の中に定在波ができたりするとまんべんなく処理ができないのではないかと思うので、周波数をスイープしたいということで、74HCU04を使ったCMOSマルチバイブレータの周波数をバリキャップで揺するという発想です。なるべく大きなパワーを入れたいと思ったので、プッシュプルにして出力トランスで結合しています。絶縁トランスになっているのは、圧電素子をステンレス容器と電気的に絶縁するか、あるいはトランスで絶縁する必要があったためです。回路図に書き忘れましたが、圧電素子にパラにコンデンサを入れて力率改善を計ったような形跡があります。

今となってはこんなことまでする必要はなかったかな、と思います。最初の写真の左側のはその反省に立って、大幅な簡略化を行いました。
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ATTINYのタイマー出力で直接圧電素子を駆動。プログラムで周波数を振っています。故障していないことを確認できるよう、電源投入時に一瞬だけ可聴周波数で鳴るようにプログラムしました。

この写真はサクランボ酒の熟成促進の実験です。
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左端の人形見たいなのは次回紹介します。結果ですが、サクランボはそのまま食べたら美味いのに、そもそもサクランボ酒というものがあまり美味くなかった。そのうえ促進しすぎてアクが出てしまいました。

お酒を超音波処理するとどうなるか、一般的傾向を書いておきましょう。
どんなお酒でも辛みが減ります。そのため、焼酎やウイスキーやウオツカなどはストレートで飲めるようになります。すでに長期熟成されているウイスキーなどは変化が少なく、辛みの強い若い酒の方が変化がはっきり出ます。日本酒やワインでは味が弱くなりすぎ、かえって不味く感じることが多いです。また、炭酸が入っているものでは炭酸のピリピリ感も弱まりますから、ビールにはあまり向きません。唐辛子入りのウオツカでは唐辛子の辛みが抑えられて美味しくなりました。ただの水でも味がまろやかになります。

分子レベルでいったい何が起こっているのか。水中のH2O分子の会合状態を実際に観察した人は居ないのですから、想像の域を出ないのですが、超音波処理の前はある程度の大きさを持った水の分子集団とエタノールの分子集団が分かれて存在しているが、超音波処理によって個々のエタノール分子を水分子が取り囲むような状態になる、というようなことだろうと思います。水とエタノールを混ぜると発熱しますが、それが一段落すれば完全な「混合」が達成されたと、普通は考えます。しかし、実はまだいくらかエントロピーの高い状態にあり、何年かかかって最終状態に落ち着いていくのかも知れません。その時間を短縮するひとつの方法が超音波処理なのではないでしょうか。

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