100kHzアナログBPF へのコメントの回答

先日の記事「100kHzアナログBPF 」

スーパへテロダイン方式ではなく、同期検波を行えはBPFでなくLPFで済み設計が簡単になるように思ったのですが、IFを100kHzに設定する理由が何かあるのですか?

というコメントをいただきました。回答をコメント欄に書いていたら800字の制限を超えてしまったので、こちらへ本文として掲載します。

この装置は機械振動子を共振周波数で振動させるためものです。振動子には変位または速度の測定手段と圧電素子などの振動を励起する手段が付いています。この装置は測定された変位または速度信号を種に励振信号をフィードバックします。つまり、この装置は受信機でもなく送信機でもなく、両方の要素を持っています。

そのためこの装置は変位または速度の測定値の位相を任意の角度シフトし、またノイズを除去するためにバンドパスフィルタを通し、振幅を所定の値にするためにAGCをかけ、励振手段にフィードバックする必要があります。バンドパスフィルタは、機械振動子が複数の振動モードを持つ場合に、特定のモードだけを選択する役割もあります。また、振幅や周波数の情報も取り出す必要があるので、検波も行います。

これをスーパーへテロダインを使わずに行うことも原理的には可能ですが、バンドパスフィルタや検波回路の中心周波数が広い範囲で変化しても同じ性能を維持するように設計するのが非常に難しいことは受信機と同じで、どんなRF周波数も同じIFに周波数変換し、IFに対してバンドパスフィルタや検波を行う方が簡単です。この装置ではしかる後に再びもとの周波数に変換して励振装置にフィードバックします。

ここで、同期検波というのは中心周波数ゼロヘルツに向けて周波数変換する方法というように見ることができるので、スーパーへテロダインの特殊な場合と見なせるでしょう。そうするとLPFが使えるようになりますが、これをダイレクトコンバージョンとかゼロIFと呼ぶそうです。しかし、LPFが使えるということは、周波数のデビエーションがゼロヘルツより正か負かの情報が消えてしまうからで、そのままでは振幅検波はできても周波数検波ができません。また、もとの周波数に戻すにも情報が足りません。周波数(言い換えると位相)の正負を知るにはミキサを2個用意し、それぞれに90°位相の異なるLOを与えることにより、互いに90°位相の異なるIF信号を作り、それらを複素数として処理する必要があります。複素信号処理はディジタル信号処理では一般的です。

次にIF周波数に100kHzを選んだ理由です。

まずなんでゼロIFにしなかったかの理由その1。この装置はLOこそDDSですが信号のパスはアナログでやりたかった(そのほうがS/Nが良いだろうと考えた)。もしアナログ式ゼロIFにするとミキサだのLPFだの、IF段をなんでも全部2セット作らなければなりません。それはすでにディジタル信号処理でやられているし、ディジタルでやる方がはるかに簡単なのをアナログでやることもないと思いました。

ゼロIFにしなかった理由その2は、周波数検波です。複素信号処理における周波数検波にはじつにいろんな方法があるようですが、私はかつてアナログの複素信号処理による周波数検波回路を作ったことがあります。原理的にはちゃんと動くし、実際もだいたいうまく動きますが、アナログ乗算器の非線形性に由来する検波出力の歪みはどうしても除去できませんので、この点でディジタルにおける同じ方式に絶対に勝てないことを思い知りました。

では100kHzにしたのはなぜか。

今回の装置では、ゼロIFは避けつつIF周波数をギリギリまで低く選定した結果が100kHzです。これ以上低いと検波の時間分解能が不足してきます。今回、周波数検波はIFの1周期に含まれる超高速クロックパルスの数を求め、その逆数を計算するいう方法(レシプロカル周波数カウンター)を採用しました。この検波方法の周波数分解能は対象の周波数の2乗に反比例するので、周波数分解能的にはIF周波数が低い方がぐんぐん得になりますが、検波出力が出てくる周期はIF周波数に反比例で遅くなるので、そのバランスをとる必要がありました。カウンタに使ったICは時間分解能が13psなので、IF周波数100kHzの場合、周波数分解能は約0.13Hzで、その検波出力がIFの1周期、約10μs毎に出力されます。またIF周波数の選定においてはオペアンプでBPFを作れる周波数であることも考慮しました。

上記のレシプロカルカウンタ式周波数検波やアナログ式複素処理による周波数検波の話題など、いずれ記事にしたいと思います。おつきあいいただき、あがとうございました。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック