高電圧パルスを作る

幅が100ns以下で高さ500Vのパルスと、そのパルスを出力してから指定した遅延時間後に立ち上がる3.3Vのディジタル信号のパルスを出力する装置を作りました。

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いちばん下のトレースが高電圧パルスを約1/40に分圧した波形。幅は半値全幅(Full width at hearf maximum)で50ns程度です。

これが装置のフロントパネルです。

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遅延時間を表示するのに秋月電子で売っているArduino用の7セグメントLED表示器を流用しました。この表示器は3線式シリアル転送できるので配線が少なくて済みます。またスタティック点灯なのでちらつきがありません。電源電圧は5V用となっていますが3.3Vで十分明るく点灯します。ただし、なぜか右側の数字を先に送るようになっています。普通MSB firstですよね。

こういう桁数の多い場合によく使われる入力デバイスはロータリエンコーダと桁移動ようのボタンスイッチですが、使ってみるとけっこう煩わしいので、今回は各桁にインクリメントとデクリメントのボタンをそれぞれ用意してみました。上記の表示器の基板のすぐ後ろにもう一枚の基板を用意し、そこにタクタイルスイッチを搭載しました。

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このタクタイルスイッチはアルプスの製品でテーピングのために長いリードが付いています。そのおかげでスイッチが載っている基板とパネルの距離が遠くても使え、しかも他の部品の都合でその距離が変わっても、はんだづけするときにどれだけリードを余らせるかで現物合わせ可能なので、とても便利です。千石電商1号店2階で売っています。スイッチが多いので新日本無線のパラシリ変換IC、NJU3754を使ってこちらも3線式シリアル転送にしました。

本尊は2003年頃にCQ出版のデザインウェーブの付録に付いていたSPARTAN3のボードです。これ1枚しか持ってないから、使ってしまうと2台目は作れません。だから専用基板をデザインしても仕方がないということでユニバーサル基板を使って手作りです。

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ここで回路図を示します。

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高電圧パルスの発生は初めての仕事なので、高電圧パルスパワー工学、というような分野の本をちょとかじってみましたが、結局今回の案件は電力がほとんど要らないので、普通にDC500Vを用意して高速なMOSFETでスイッチすればできることに気付きました。使用したMOSFETは2SK3113というNEC製ですが、ルネサスになって廃止品種に入れられてしまったようです。これは鈴商で買えます。

MOSFETのゲートは容量性なので高速に駆動するにはある程度電力が必要です。とくにオフにする時にゲートの電荷を積極的にディスチャージする方策を考えてやらないと高速動作ができません。それと、今回は正電圧のパルスを作りたいので、ドレイン接地になり、ソース側の電位が変化します。ゲート電圧はソースに対する電圧として与えなければならないので、レベルシフト回路が必要であるのに加え、ソース電位が20kV/usというような速さで変化します。

ゲートドライブ回路を半導体回路で作ろうとするとけっこう苦しそうですが、今回の仕様ではパルス幅が狭いのでパルストランスが使えます。1次側はセンタータップ付きにし、片方の線輪に電流を流すとMOSFETのゲートに正電圧パルスがかかりMOSFETはONになります。そして何10nsか遅れてもう1本の線輪に電流を流すとMOSFETに負電圧パルスがかかり、ゲートの電荷が引き抜かれてMOSFETはOFFになります。1次側の駆動には、これもやはりNECの高速スイッチングトランジスタ2SC3732を使いました。そしてこれも廃止品種です。

そのパルストランスに求められる特徴は、漏れインダクタンスが小さいことと、巻き線間容量が小さいことです。漏れインダクタンスが大きいとゲート容量との間の共振周波数が下がり、高速動作ができません。この問題を解決するにはトランスの結合係数を徹底的に高くするか、励磁インダクタンスを必要最小限に抑えることで結合係数が低くても漏れインダクタンスが小さくなるように設計する必要があります。

また巻き線間容量を通してMOSFETのソース電圧の変動がゲート駆動回路にフィードバックされると動作が遅くなります。ゲートをONするにはトランジスタのコレクタに1次側のコイルを通して電流が流れてくれなければなりませんが、巻き線間容量を充電するための電流が流れ込んでしまうと、いわゆるミラー積分の効果によってMOSFETのソース側電圧は直線的に上昇するようになってしまいます。

そんな問題を解決してくれたのが電源用コモンモードチョークのコアの流用です。
コモンモードチョークをパルストランスに転用するというネタを以前紹介しました。あのときは遊びで半分でしたが、そのおかげで今回すぐに思いつきました。

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まずこのコアには耐圧の高そうな樹脂のカバーが付いています。1次側と2次側の巻線を重ねると耐圧が不安ですから、それぞれの巻線を分離して巻く方が、漏れインダクタンスは増えるでしょうが、安心です。コモンモードチョークのコアは透磁率が高いので、巻数が少なくなり、そういう巻き方が可能になるだけでなく、そういう巻き方をしても漏れインダクタンスが少ないことが期待できます。作ったパルストランスは2次側が1mH程度です。

コアのサイズを見積もるには磁気飽和しないかを検討する必要があります。コモンモードチョークのコアは事実容易に磁気飽和させることができます。改造前の元々の2つある線輪の片方をインダクタンスメータに接続し、他方に直流電源から電流を流して、電流とインダクタンスの関係を知ることができます。やってみると、ここから飽和しましたというような明確な折れ線ではなく、だらだらとインダクタンスが減るようです。逆に言えばインダクタンスが急にゼロみたいになることもないようなので、まあ3割減るあたりを目安にし、励磁電流がそれのさらに半分程度なら十分良い設計ではないかと思います。

市販のパルストランスに比べると全体にインダクタンスが小さいのがひとつの特徴です。またこのトランスは1:1:2の巻数比になっています。これにより1次側の電源電圧が12Vでも2次側のMOSFETには±24Vのゲートパルスを与えられます。

高電圧DC電圧源は、実は冷陰極管点灯用のインバータを全波整流したものに電圧フィードバックをかけたものです。

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フィードバック回路はシャントレギュレータを応用しました。わざわざインバータの電源として5Vの電源を使っているのは、本来このインバータが1000Vを超える電圧を発生できるものであるのに対し、今回使ったMOSFETが600Vしか耐圧が無く、何らかの理由でそれを超える電圧が出られると困るから、電源電圧をぎりぎりに下げておきたかったということです。ちなみにこのインバータは放電管点灯用なので、点灯するためには非常に高い電圧が必要ですが、点灯してしまうと内部インピーダンスが高くなって電圧が下がってしまうような特性になっています(たぶんギャップ付きコアを使っていると思います)。

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ああそうそう、今回を含め最近のフロントパネルの製作方法は次のようにしています。緑色のきれいな生基板(PCBマテリアルズから購入)を使って基板加工機で表示器だのスイッチだのの穴を開けてパネルを製作。デザインはレーザープリンタ用のOHPシートに反転印刷(トナーが内側になるようにするため)したものをスプレー糊で貼っています。緑色が嫌な場合はカッティングシート(色はオレンジグレーを愛用)を貼った上にさらに上記のOHPシートを貼ります。7セグメントLED部分はフロントパネルの内側にスモーク色の塩ビ板を貼り、LED表示器表面からの反射を抑えています。

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この記事へのコメント

「高電圧パルスを作る」について
2016年07月31日 20:14
IEC61000-4-4, IEC61000-4-5 の波形が出せると、
波形確認を新人教育でオシロスコープの使い方の勉強になりますわね。また 短時間の矩形波を出せればプローブの校正も可能。
IEC61000-4-5なら0.5nsの半値幅があれば、500MHz帯域オシロスコープでも十分なスペックのキャリブレータを製作できるであろう。
可能ならフローティング出力をOn・Offできるといい。
こいち
2016年07月31日 20:19
IEC61000-4-4, IEC61000-4-5 の波形が出せると、
波形確認を新人教育でオシロスコープの使い方の勉強になりますわね。また 短時間の矩形波を出せればプローブの校正も可能。
IEC61000-4-5なら50nsの半値幅があれば、500MHz帯域オシロスコープでも十分なスペックのキャリブレータを製作できるであろう。
可能ならフローティング出力をOn・Offできるといい。

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