高速振幅制限回路 Fast amplitude limitter

以前電圧リミッターの記事を書きました。あれは高精度ですがあまり速くありません。今回はレーザダイオードのパワーを変調する際に素子に過大な電流が流れるのを防ぐ目的で高速な電圧リミッターを作りました。1MHzまで使えることを目標にしました。

まずはこのリミッターの”切れ味”を見てもらいましょう。100kHzの正弦波に上下から振幅制限をかけた波形です。

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上下のリミットレベルは異なる値に設定しています。周波数が1MHzになってもほとんど変わりません。

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ピンクと水色の線はリミットレベルです。リミットレベルと実際に頭打ちになる電圧の間に少々誤差があります。この電圧リミッターは高速で平らに切れますが、リミット電圧の精度の方はあまり高くありません。

下のが回路図です。

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トランジスタはすべて高速スイッチングトランジスタの2SA1459と2SC3732です。表面実装にする場合はそれぞれ2SA1462と2SC3735にします。

原理を説明するために主要な部分を抜き出したのが次の図です。

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心臓部はQ5とQ6のプッシュプル構成になったエミッタフォロワです。オーディオアンプの出力段を簡素化したようなものです。Q1とQ2もエミッタフォロワですが、これはQ5とQ6が動作できるベース電圧を確保するため、それらのVBEに相当する電圧だけ入力電圧を上下にシフトしてやるためにあります。
 もっとも、この説明は目的を述べたので、動作原理は逆になります。Q1とQ2はそれぞれ定電流回路でバイアスされているので、VBEは従属的に決定されます。ちなみにどちらの定電流もカレントミラーで同じ値になるように構成されています。電流値を決めているのはR15です。さてQ1とQ2のエミッタ間の電位差はVBE2個分で、それがまたQ5とQ6合わせて2個分のVBEになります。その結果、今度はQ5とQ6のコレクタ電流が従属的にQ1とQ2のバイアス電流と等しくなります。
 ということは、Q5とQ6のコレクタはそれぞれ正負の電源に直結していいのです。ぱっと見るとQ15~Q18のカレントミラーがバイアス電流を供給しているように見えますが、よく見るとミラーの向きが逆で、これらはQ5とQ6の電流値を検出している電流センサーになっています(これは後述します)。
 Q9とQ10は差動ペアになっていて、Q9のベース電圧の方がQ10のそれより高くなるとQ9がONになり、Q5のベース電流をシャントしてしまうので、Q9のベース電圧(これが回路の出力)の上昇が阻止されます。Q9はQ1のバイアス電流を全部吸い取るので、Q9とQ10の差動ペアのエミッタに接続されている定電流は少なくともQ9のバイアス電流と同じか、それより大きくなければなりません。この値については後で考察します。以上が上側のリミッターの動作原理です。言うまでもなく下側も同様です。

実際の回路にはQ6とQ7のコレクタにショットキーダイオードが挿入されています。これが無いとリミットレベルがある程度深くなったときに不正な動作を起こします。

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上側のリミットレベルで説明すると、①入力波形よりリミットレベルが高いときは当然そのまま出力され、②リミットレベルが入力波形の頭より低くなるとリミットが始まりますが、③あるところから正弦波のてっぺんのような出っ張りが現れることがあります。
 このときQ5のベース電圧は④ゼロ付近まで下がっています。ということはQ9は出っ張りを解消しようとしてQ5のベース電位を引き下げていますが(ということはQ1のバイアス電流を全部吸い取ろうとしていますが)それでも出っ張りができてしまっているわけです。
 もともとプッシュプル構成のエミッタフォロワなので、リミットが掛かっていないときはQ5とQ6のベース電位は2個分のVBEの間隔を保って平行に上下します。上側のリミットはQ5のベース電位だけある値に固定する動作なのでQ6のベース電位の方はそれとは関係なく高くなって出力電圧を超えることもあります。
 Q6のベース-エミッタ間は逆バイアスになりますがVBEO以内なら不正動作に至りません。VBEOはだいたい5Vあるため、電源電圧が±5Vなら問題ありません。不正動作の原因はQ6のベース電位(Q7のコレクタ電位でもある)が出力電位(Q7のベース電位でもある)より高くなった場合、Q7のコレクタ-ベース間のPN接合が順バイアスになればこの接合を通してQ2のエミッタフォロワにより出力が上側に駆動されるためです。これを防ぐためにショットキーダイオードが必要でした。

では上で予告したようにQ7とQ8それにQ9とQ10の差動ペアのバイアス電流について考察します。上で述べたように最低でもQ1とQ2のバイアス電流より少しは大きい値が必要なのですが、この電流値によってリミットレベル設定値と実際に波形が頭打ちになる値の間のオフセットが変わってきます。
 ここでも上側リミッターで考えます。リミットが効いている間、Q9はQ1のバイアス電流をほとんど全部吸い取って、わずかな残りをQ5のベースに与えているわけですから、この間Q9のコレクタ電流はだいたいQ1のバイアス電流と等しくなります。
 一方、Q9とQ10の差動ペアに着目すると、リミットが掛かっていないときは差動ペアはQ10だけがONになっているのでバイアス電流は全部Q10のコレクタに流れます。Q9のベース電位がQ10のそれに接近するとQ9のコレクタにも電流が流れはじめ、Q9とQ10のベース電位が等しくなるとQ9のコレクタにはバイアス電流の半分が流れることになります。この差動ペアのバイアス電流の半分がちょうどQ1のバイアス電流と等しくなるように設定しておけば、リミットが掛かっている間はQ9とQ10に等量の電流が流れるので、Q9とQ10のVBEが等しくなります。つまりリミットレベル設定値と実際に波形が頭打ちになる値が一致します。
 回路シミュレータでは差動ペアの電流を正確にQ1のバイアス電流の2倍にしたときにリミットレベル設定値と実際に波形が頭打ちになる値が一致しますが、実際にやってみると多少違う結果になります。差動ペアのバイアス電流が正確に2倍になるように同じカレントミラーを2個並列にするという配慮をしても、実際にリミットレベル設定値と実際に波形が頭打ちになる値の誤差が最小になるとは限らないようです。このへんの理由はまだよく理解していません。実際の回路では差動ペアのバイアス電流を決めているカレントミラーのエミッタ抵抗を低めにし、Q1のバイアス電流の2倍より多めに流すようにしています。

最後にQ15~Q18について説明します。目的はリミット動作がどの程度発生しているかモニタするためです。リミット動作になるとQ5またはQ6のコレクタ電流がゼロになります。カレントミラーでこれらのコレクタ電流をグランドレベルの電圧に変換してディジタルICで整形し、ローパスフィルタをかけてアナログ電圧に変換すると、リミット動作が発生している割合を知ることができます。Q17とQ18のカレントミラーで一旦Q6のコレクタ電流をシンク電流に変換し、Q5のコレクタ電流と電流加算してQ15とQ16のカレントミラーでもう一度反転してソース電流に変換し、R16に流すことでグランドレベルから正方向に振れる電圧に変換しています。

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