密結合と粗結合

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改良レシオ検波の内容について質問をいただきました。トランスの1次電圧に対して2次電圧が90°遅れになるためには結合が非常に粗でなければならないというのはなぜか?

式で解くとそうなるんです!という答えでは理解の助けになりませんが、参考になるのも事実です。式は下図に書いておきましたので参考までにご参照下さい。

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冒頭の落ち葉はサムネを華やかにするためで内容とは関係ありません。

(1)ではメカニズムを考えましょう。トランスの1次コイルに交流電圧源が接続されたとします。もし2次コイルがオープンになっていたとすると、2次コイルには誘導起電力は発生しますが電流は流れません。

(2)トランスの1次、2次というのは、トランスを利用するときにどっちからどっちに信号またはパワーを伝達するかという人為的な決めごとに過ぎません。何が言いたいかというと、2次コイルに流れる電流の影響も1次コイルに戻ってくることになります。しかし、今は2次コイルに電流が流れないので1次コイルに流れる電流を考えるにあたって2次コイルの存在を考慮に入れる必要はありません。1次コイルに流れる電流は1次コイルの自己インダクタンスのために交流電圧源に対して90°位相が遅れます。また、発生する磁束は電流に比例しますから、これも交流電圧源に対して90°遅れます。

(3)こうして90°遅れた磁束の一部(粗結合の場合)または全部(密結合の場合)が2次コイルに入ってきます。2次コイルに発生する起電力(電圧)は磁束の時間微分に比例するので、ここで位相が再び90°進み、結果として2次コイルに発生する電圧は1次コイルに接続されている電圧源と同位相になります。ここまでは結合の粗密によりません。

(4)ここで粗結合の場合、2次コイルをショートすると、2次側に電流が流れますが、粗結合なのでその影響はほんのわずかしか1次側に反映しませんから、2次側の起電力が1次側に接続した交流電圧源と同位相になるという条件は崩れないものとします。つまり(2)で仮定した2次側に電流が流れないから、という条件は崩れますが、粗結合だからという別の条件で近似的に成立するということです。2次側に流れる電流は、2次コイルの自己インダクタンスのせいで、2次側起電力に対して90°遅れます。結果として、1次側の交流電圧源に対しても90°遅れます。

(5)レシオ検波では90°遅れの電流ではなく電圧が欲しいのですが、そのためには上記の2次側電流を抵抗負荷(実際にはレシオ検波回路なので純抵抗ではないかもしれませんが)に流して電圧に変換する必要があります。このとき、抵抗の値は2次コイルの自己インダクタンスによるインピーダンスの絶対値より十分に小さくないと、ここで位相が90°より少し進んでしまいます。

(6)つまり、粗結合で2次側の位相を90°遅らせるには、(4)の粗結合という条件と、(5)の負荷抵抗が2次側のインピーダンスよりかなり小さいというふたつの条件が必要です。(4)の条件ですでに電力の伝達効率が悪い上に、(5)の条件のために取り出せる電圧がさらに低くなります。

(7)じつは(4)の条件ではなく(2)と(5)の条件を組み合わせる方法も考えられます。つまり、密結合のトランスを使うのですが、2次側は非常に大きいインダクタンスを介して負荷抵抗に接続しておきます。そうすると、2次側には実質的にほんのわずかな電流しか流れませんから、(2)の条件は近似的に成立します。

(8)さて一般の場合に密結合のトランスはどんな振る舞いをするでしょうか。2次コイルに発生する電圧は、電磁誘導の法則で「磁束の変化を妨げる向き」になります。2次コイルをオープンにしておけば妨げないのですが、ショートした場合には磁束の変化を妨げる方向の起電力が出ます。もっともショートしておくと起電力を観測できないのですが。

(9)つまり2次側をショートするのは渦電流によって磁束を打ち消すことと同じです。もし2次コイルの抵抗がゼロだったら、2次コイルのショートによる磁束の打ち消しは完璧になります。見方を変えると2次コイルには1次コイルが作った磁束が入れなくなり、その分磁路が狭くなって1次コイルの自己インダクタンスが下がったのと等価になります。このため、1次コイルの自己インダクタンスによる電流制限が低下し、1次電流が増加します。またそれによって2次電流を供給してると見ることができます。

(10)つまり、2次側で電力が沢山必要になると、自動的に1次側から見たトランスのインピーダンスが下がって電力を2次側に供給します。密結合のトランスはこの作用が非常に強く、巻き線比による電流・電圧の変換をするだけで、トランス自身のインピーダンスというような個性を示しません。2次側の電流・電圧は1次側の電流・電圧をそのままトレースします。

(11)(9)では1次コイルのインダクタンスが低下したのと等価、と言いましたが、1次コイルと2次コイルの自己インダクタンス自体は普遍であり、相互に影響し合う度合いを相互インダクタンスという概念を追加することで説明する方が計算がスッキリできます。それが最初に示した計算式のMです。

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