高電圧アンプを改良

走査プローブ顕微鏡(SPM)のプローブ(AFMならばカンチレバー)を試料表面にXYスキャンする、その軸がXY軸。試料とプローブの間隔を調節する方向、試料に垂直の方向、これがZ軸です。改良したのは鳩歩堂オリジナルZ軸制御器"ZeeKon"シリーズの出力アンプです。もっとも高電圧といっても±200Vです。

ZeeKonシリーズはアナログのPIコントローラを基本として、強制リトラクト、積分値保持などのZ軸特有の機能を持ち、最終段に高電圧アンプを内蔵しているのが特徴です。

最新版のZeeKon4。
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XY傾斜補正、Z軸ドリフト自動補正などの機能などが強化されました。
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左側にあるアルミ製ケースの中身が高電圧アンプ、左下の基板が高電圧安定化電源回路です。

ZeeKon2までは高電圧アンプの出力電圧範囲±150VだったのでAPEXの高電圧オペアンプPA41を使っていました。出力電圧範囲を±200Vに拡大する際に普通のオペアンプ+電圧ブースターという構成に変えました。ローノイズや入力オフセット電圧の低さなど、設計の自由度が増えるという目論見でしたが、残念なことに帯域が狭かった。いまから見ると位相補償の設計が未熟でした。APEXに戻るのも癪に障るし、この技術を完成しておけば±400Vにでも対応できそうです。

これが高電圧アンプの回路図です。
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電圧ブースターは入力電圧を上下対称な電流-電圧変換回路で電流に変換し、カレントミラーで折り返して上下からぶつけるという、これに電流増幅段が付けばオーディオアンプにもよくある基本構造です。電流-電圧変換の係数はDC的には1kΩです。この抵抗が比較的に高いのは、出力がグランドにショートしても数ミリアンペアしか流れないという安全性を担保するためです。しかし、そのままではブースターのゲインが低いので、高い周波数では100Ωまで下がるようになっています。

ブースターの電圧-電流変換部分のエミッタ側は電流帰還形オペアンプの反転入力端子と見ることもでき、出力からここへネガティブフィードバックをかけることができます。ブースターが積分器になるようにコンデンサでフィードバックしています。

カレントミラーが何か所もありますがペアトランジスタは使っていません。出力電流もまぁ10mAといったところで小さいので、十分大きいエミッタ抵抗を入れてやれば前側のトランジスタはダイオードで代用しても問題ありません。

2SC1815と2SA1015は定電流源で、ブースターのバイアス電流を流すためのものです。

出力電流が小さいので電流増幅段は付いていません。このアンプが駆動するのは圧電素子で、ほとんど純粋な容量性負荷です。容量は7500pFくらいあるものの、出力電圧はほとんどDC電圧が占めAC成分は小さいので、あまり電流駆動能力は必要としません。電流増幅段(エミッタフォロワ)が付くと出力電流制限回路も付けなければならないので面倒です。

このアンプはSPMコントローラに使うので、出力電圧が飽和するときの特性にも気を使います。何も対策しないと飽和から回復するときにスパイク状の電圧変化が起きたり、あるいはヒステリシス特性を示したり、いろんなことが起きます。そういうことが起こると、SPMではプローブを試料にクラッシュさせる原因になります。このアンプでは2か所、つまりオペアンプとブースターそれぞれに飽和対策が打ってあります。

OP27の出力と反転入力の間にダイオードが5個直列になったのが逆パラに接続されています。これはオペアンプの出力電圧が±3V程度を超えないように制限するものです。ガリウムナイトライド系のLEDやツェナダイオードでも良さそうですが、接合容量が数10pFあるので使えませんでした。1SS133や1S2076は接合容量が3pF程度なので、面倒なようですが直列にして使いました。

EP01Cはサンケンの超高速整流ダイオードです。これは最終段のトランジスタのベースがオーバードライブされないようにするためのものです。コレクタ-エミッタ間の電圧がある値より低くなると、ベース電圧が頭打ちになり、ベース領域に過剰な少数キャリアが注入されるのを防止します。74LSシリーズのロジックファミリー(今はほとんど見かけませんね)ではショットキーダイオードをベース-コレクタ間に逆並列に接続して同様の効果を出していました。LEDはベース電圧が頭打ちになるコレクタ-エミッタ間の電圧を調節するため、2V程度のツェナダイオードの代用として使っています。

左側にあるのは電圧ゲインを8段階に切り替えるための回路です。なぜ切り替えスイッチやDAコンバータを使わないかというと、SPMの制御を行っている最中に出力アンプのゲインが急に変わるとプローブと試料がクラッシュしたり制御が外れたりするからです。アナログフォトカプラ(LED+CdSセル)の1次側のLEDの電流をゆっくり変化させることによってゲインの変化がゆっくりと起こるようにしています。入力の直後の10kΩとパラに390kΩが入っているのは、アナログフォトカプラのON抵抗が250Ωくらいあるため、その分10kΩから予め引いておくためです。

このアンプの帯域は、無負荷では400kHz程度です。これはフィードバック回路の200kΩと2pFから予想される値に一致します。8200pFの容量性負荷を付けると、少しピーキーになり、200kHzあたりで3dB落ちてしまいます。しかし実際必要なのは10kHz程度までなので、10kHzでの振幅および位相特性は容量性負荷の影響はまったくありませんでした。

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    Excerpt: 先日、電圧リミッターについて書きましたが、単純な電圧リミッターはダイオードかツェナーダイオードを使って作ることができます。以前のノートを見ていたら面白い記録があったので記事にしてみます。 Weblog: 鳩歩堂の電子工作館 racked: 2011-10-30 01:10