自励発振の条件

自励発振回路の条件について考えていることを書いてみたいと思います。自励発振と言ってもマルチバイブレータではなくタンク回路(共振回路)を持っているやつです。

コルピッツとかハートレーなど人の名前がついた発振回路の形式は有名ですが、それぞれコイルとコンデンサにトランジスタをどう接続するかを示す図をよく見かけます(この記事の3番目の図を参照)。この図はDCバイアスを省略してあるのが特徴で、なんと不親切な図だろうと思う向きもございましょうが、それぞれの形式エッセンスを好く表わしていて、この図を基にいろいろ変形して自分なりの発振回路を設計することができます。

ただ、具体的な能動素子が描かれているため、基本回路を変形していくことによって発振回路を設計するという手法に留まり、それよりもうひとつ抽象の度合いが高いレベルで、どうしたら発振するよ、という理解につながりにくい気がします。

ロスを補って発振を維持
コイルとコンデンサを環状に接続した、つまり共振回路があり、それ共振しているとします。仮にロスがなければ、共振電流・共振電圧は減衰しません。実際にはロスがあるために減衰していくのですが、そのロスを補ってやる能動回路を付加して恰もロスがないのと等価な状態を作り出せば、共振状態が維持されます。どんな回路を付加するとそうなるか考えようというのです。

発振器のタンク回路の立場に立ってみると、並列共振とか直列共振という区別はなく、コイルとコンデンサが輪っかに接続されている状態です。その輪っかのどこにロスがあるか厳密に考察しないと、ロスを補う回路へ考察を進めることができないか、というとそうでもありません。

下の図の(a)ようなタンク回路があるとします。
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Lの寄生抵抗としてRがあったとして、共振周波数において端子間のアドミッタンスYを計算すると、
 Y = 1/(jωL+R)+jωC = R/(R^2+ω^2 L^2 ) + jω(C-L/(R^2+ω^2 L^2 ))
ただし、ωを共振(角)周波数とします。ここで、寄生抵抗はLのインピーダンスよりはずっと小さいはずなので、
 R≪ω^2 L^2
を仮定するとYは次のように近似できます。
 Y ≈ R/(ω^2 L^2 ) + jωC + 1/jωL
これは(b)のような並列回路が示すアドミッタンスです。LとCの値は(近似的に)そのままの値で、小さい直列抵抗が小さい並列コンダクタンス(あるいは大きい並列抵抗)に変換されました。

この例でわかるように、ロスが小さい(タンク回路のQ値がある程度高い)場合、ロスは高い並列コンダクタンスでも小さい直列抵抗でも、考えるのに都合が良い方を採用すればいいのです。

それではロスを補うやり方を次の図に示します。
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(a)は直列モデル、(b)は並列モデルですが、モデルの構造でやり方が違うというよりも、(a)は電圧源でロスを補う場合、(b)は電流源でロスを補う場合、というように見てください。

(a)ではタンク回路に電流が流れると直列抵抗に電圧I・Rが発生し、何も補わなければその分だけLとCにかかるべき電圧が減り、だんだん振幅が減って振動が停止してしまいます。電圧I・Rを補償すればいいのですが、実際の回路では直列抵抗が顕わに接続されているわけではないので、電圧I・Rそのものを検出することはできません。電流Iを検出して、それと同位相になるような電圧をタンク回路に直列に挿入すればいいでしょう。

しかし、現実にはこの方法は難しいです。まず電流を検出するのは電圧を検出するのよりやっかいですが、それはタンク回路の電圧を検出して位相を90度シフトする方法で代替できるかもしれません。本当に難しいのは直列に挿入される制御電圧源です。理想的な電圧源はインピーダンスがゼロです。タンク回路の無効電流を電圧降下なしに通過させなければなりません。低い周波数ならオペアンプを使って実現できるかも知れませんが、裸の半導体素子はとても理想的な電圧源にはなりません。そんなわけで(a)のような発振器は見たことがありませんが、原理的には可能です。

(b)は電流と電圧の関係を入れ替えた方式です。タンク回路の両端に電圧が発生すると、タンク回路に並列になったコンダクタンスに、漏れ電流V・Gが流れ、本来タンク回路に流れるべき電流が減ってしまうため、振動が減衰してしまいます。これを補うには、タンク回路の電圧を検出し、それと同位相の電流を補償すればいいでしょう。

この方法は実現可能で、ハートレーもコルピッツもこちらの方法のバリエーションに他なりません。半導体素子や真空管は電流源に近似する方が電圧源に近似するよりよほど増しです。

発振器のゲイン
ところで、ロスをちょうど打ち消すだけの補償をすると振動が維持されますが、振動の強度(電流・電圧の振幅)は任意です。へんだと思いませんか? それに、上の説明では途中からボカしておきましたが、タンク回路のロスを具現化したRだのGだのは、その実際の値をあらかじめ知ることができませんから、正確にI・RやV・Gを補償することは不可能です。

実際の発振回路はロスを補って余りあるように作られます。電源投入後、熱雑音が種になって振動が始まり、発振振幅はどんどん増加していきます。どこで平衡するかというと、普通は電源電圧によって補える電圧なり電流振幅に限界があり、そこに達して平衡します。ロスを補償するための電圧や電流が正弦波の頭がつぶれたような波形になったり、方形波みたいになったりします。タンク回路のQ値が高ければ波形の歪は濾過されて減少しますが、完全には無くなりません。ゲインを発振維持に必要な強度ギリギリにすると、波形が綺麗になる代わりに発振停止の危険が出てきます。波形を非常に綺麗にするには発振振幅を検出し、目標値に達したらゲインを絞る制御機構が別途必要になります。

コルピッツ型とハートレー型を検証
本題に戻ります。電流源を接続する箇所はタンク回路の両端に限りません。コンデンサを分割した中間点に接続したりコイルのタップに接続してもいいですし、コイルに別の線輪を誘導結合させてそこに接続してもいいです。

電圧を検出する箇所もタンク回路の両端に限りません。コンデンサで分圧してもいいしコイルの中間タップから検出してもいいし、別の線輪を結合させてそこから検出してもかまいません。あまり見かけない方法ですが抵抗で分圧してもいいでしょう。

さてコルピッツとハートレーの両方式を見てみましょう。
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どちらも2番目の図の(b)のバリエーションであることがわかります。

プッシュプル発振器の例
次にプッシュプル発振器の例を示します。
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(a)はMOSFETを使ったプッシュプル発振回路の例です。タンク回路を構成する主要なコンデンサC0とは別に、C1からC4による電圧検出用の分圧回路を持っています。この回路が自励発振の原則に適っています。

電源は原理的には(b)のようにタンク回路のコイルの中点に供給することもできます。また図には示しませんが、電圧検出はコイルに設けたタップから行うこともできますし、検出専用の線輪を結合させておくこともできます。

ここに示すプッシュプル発振回路は、コイルLを誘導加熱のコイルそのものとして使うことができる大電力自励発振回路の基本構成として使えます。その場合にはコイルに中点やタップが必要になると実装上不便な場合があります。

(c)はコイルの両端の電圧を電源電圧よりもはるかに高くできるのが特徴です。その倍率はCS1とCS2に対するC0の容量の比で決まります。真空管に比べて低インピーダンスの半導体を使って高電圧を発生する手段となります。電流を注入する位置は分割したコンデンサの間(またはコイルの中間タップ)にすることもできる、と上の方で言いましたが、それだけでなくインピーダンス変換作用があるということです。

このインピーダンス変換作用は、ハイパワーの発振回路だけでなく、高周波の発振回路でインピーダンス変換しないとコイルの巻き数が非常に少なくなって作りにくい場合などにも使えます。

電圧検出をC0の両端から行う(d)の回路でも原理に適っていますし、コルピッツ発振器のLにコンデンサを直列に入れたものがクラップ発振器として知られていますので、(d)はクラップ発振器をプッシュプルにしたものに近いです。たぶんMOSFETのゲートバイアスのかけ方次第では発振すると思います。

ところが(d)は具合が悪い場合があります。ハイパワーな発振器を実現するには、MOSFETの発熱を抑えて効率を良くするため、これらをリニアな素子としてではなくスイッチとして動作させる必要があり、ゲートのDCバイアスやゲインの大きさによってスイッチング動作になるように設計します。(d)の回路だと、仮にスイッチング動作が実現したら、OFFになっているMOSFETのゲートはONになっているMOSFETのドレイン電圧を分圧したものですから、常にゼロとなってしまいます。つまりうまくスイッチングになりません。

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