陽極接合器

あけましておめでとうございます。
正月休みなので年末に撮っておいた写真を使ってひとつ装置を紹介します。
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この入れ物の名称はペットキャリー。猫を連れて電車などに乗るときに使うものですが、その中身が今回紹介する装置です。

前回の拡大模型で紹介したカンチレバーですが、本物はなかなか小さいもので、3.4mm X 1.6mmとかいう小さいシリコンやガラスチップの一端または両端に長さ50から100ミクロン(髪の毛の太さくらい)のカンチレバーが生えているという代物です。これを装置に固定するのですが、空気中や真空中ではバネで押さえる構造の装置が多いようです。カンチレバーの片面には針が付いていて、それが試料の表面を撫ぜるのに対し、カンチレバーの反対側の面からレーザ光を当て、反射してくる光によってカンチレバーの反りだったり速度だったりを測定するわけです。取り付けジグも相応に小さく、レーザ光線のパスを遮らないように、また試料に接触しないような構造にと、気を使って作らなければなりません。

鳩歩堂らが開発している原子間力顕微鏡(AFM)は試料を液中に入れた状態で観察するための専用の装置です。液体を湛えた透明なセルの底にカンチレバーを設置し、セルの底を通してカンチレバーにレーザ光線を当てる構造になっているので、カンチレバーはセルの底に接着すればいいのですが、液体に接着剤が溶けださないかとか、液体で接着剤が膨潤する(そうなると試料-カンチレバー間距離がドリフトする原因になる)のではないかといった懸念が生じます。そこで鳩歩堂らは接着剤を使わずに「陽極接合」という方法でガラス板とカンチレバーのシリコンチップを固定することにしました。

陽極接合の原理です。
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ガラスとシリコンを重ねて加熱し、シリコン側に陽極、ガラス側に陰極を接続して高電圧をかけると、ガラスとシリコンがくっつきます。

ガラスの主成分は酸化ケイ素SiO2です。全部SiO2だけでできているガラスを石英ガラス、その他の成分を含むガラスを多成分ガラスと言います。窓ガラスや家庭用の鏡などはナトリウを含むソーダガラス、ビーカーやフラスコはホウ素を含むホウケイ酸ガラスが一般的です。多成分ガラスを加熱すると、含まれる陽イオン(ナトリウムやホウ素)は動きやすくなり、そこに高い電圧が掛かると陰極に引かれて移動しようとします。シリコン(ケイ素)と多成分ガラスを重ねておき、シリコン側に正電圧をかけると、陽イオンがシリコンから遠ざかるように移動します。シリコンとガラスの界面は酸素イオンが余剰になり、強い帯電状態が発生し、強力な静電引力でシリコンと多成分ガラスが押しつけられ、界面の酸素がシリコンと結合して完全にくっついてしまいます。必要な電圧と温度はシリコンやガラスの表面の清浄さに大きく左右されますが、1000V, 500℃あればたいてい確実にくっつきます。

装置の中身は、
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ホットプレートと高電圧電源と電圧をかけるプローブです。左上に赤いボタンのスイッチがあり、このスイッチは蓋が閉じると押されてONになります。蓋を閉めたうえで中央下部にあるボタンを押すと高電圧がかかります。高電圧電源は冷陰極管用のインバータを流用しました。
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透明ケース内左側の小さいトランスが載っている細長い基板がインバータで、その出力を倍電圧整流(2段のコッククロフト回路)で直流にしたものをプローブにかけます。冷陰極管もそのまま付けてあるので、電圧が掛かっているときは光ります。箱の右側はインバータを動かすためのスイッチングレギュレータです。

冷陰極管のインバータはあまり電流がとれないため、カンチレバーの接合には十分ですが、大きいガラス板とシリコンウェハを接合しようとすると、電圧がヘタッてしまい接合ができません。そういう場合は冷陰極管も点灯しません。

陽極接合の説明で、多成分ガラスとシリコンの接合ができると書きました。多成分ガラスであればたいてい接合はできるのですが、線熱膨張係数がシリコンと一致していないと、冷えるに従って応力が入って割れてしまいます。パイレックス7740というホウケイ酸ガラスは、線熱膨張係数がシリコンとたいへん近いので、陽極接合によく使われます。また、このガラスは光学特性も良好です。

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